賢い人の分散投資−1.8

8. 米国の投資信託の調査結果

このような傾向が、わが国だけのことかというと、そんなことはない。投資信託の分野では、わが国よりもはるかに先輩格の米国でも同じような状況である。(注) 米国では、過去に成績のよかった投資信託のその後の成績を追跡調査するなど、時間をかけた調査を含めて、様々な調査結果が発表されていることから、より詳しい状況を把握することができる。そのうちのいくつかを、以下に紹介してみよう。

  

紹介に先だって、いくつかの前提条件を確認しておきたい。この種の統計調査を読みとる際には、運用利回りの統計調査データが、手数料を控除したあとの数字であることを確認する必要がある。そうでなければ、投資家の本当の利回りとは言えなくなる。なお、手数料には購入時や売却時のものと、保有期間中のものとがある。前者の購入・売却時の手数料については、もちろん、考慮することが望ましいが、考慮していない統計データも一部あり、その場合には注釈をつけておいた。なお、購入・売却時手数料は、どこで購入・売却したのかによって多少異なるケースがあることから、統計上、若干の誤差が生じる可能性がある。しかし、後者の、保有期間中の手数料については金融機関による差異はない。

また、運用期間中に払われる分配金については、再投資されて、つまり元本に加えられて、その後は運用益を生み出すものとして計算するのが普通である。

  

これに加えて、「生存者バイアス」(survivorship bias)という点にも注意をしなければならない。投資信託の中には3年とか5年とか、短い期間で償還されてしまうものがある。投資信託が設定された時点から、その短い運用期間を予定していたのであれば問題ないのだが、運用資産の残高が減少して、予定を繰り上げて償還されるものが少なくない。投資信託は、新たに設定された当初には、金融機関の宣伝効果もあって、残高が積み上がるが、数年後には、金融機関の宣伝するのは、もっと新しい別の投資信託となり、古い投資信託の残高は減少傾向となりがちである。それでも、その数年間の運用成績が優れていれば、残高がどんどん減るということはないはずなので、途中で繰上げ償還される投資信託は、繰上げ償還されなかった投資信託よりも、成績がよくなかった可能性が高いと考えられる。

すべてのアクティブ型投資信託について、過去7年間とか10年間の平均成績を計算して、市場平均と比較しようという場合に、このような、繰上げ償還されて、途中で消えていった投資信託のことを忘れてしまい、7年ないし10年以上にわたって生き残っている投資信託だけを集めて、平均成績を計算してしまう可能性がある。計算結果は、消えていった投資信託を含めた場合よりも、含めない場合の方が高くなる。これが「生存者バイアス」と呼ばれるものである。

そこで、アクティブ型の7年間あるいは10年間の平均運用成績という統計データを見た場合に、この種のバイアスがかかった高めの数字なのかどうかを確認する必要がある。消えていった投資信託を含めて運用成績を計算するのは手間がかかることから、生き残り分だけで計算をしてしまう場合もあろう。あるいは、高めの数字を出したくて、意図的に生き残り分だけで計算する場合もあるかもしれない。いずれにせよ、投資家が過去のデータを見る場合には注意を要する。消えていった投資信託を含めたデータを、余分な手間をかけて集めた場合には、その旨の注釈を付けている可能性が高い。何も注釈がない場合には、バイアスがかかった数字ではないかと疑ってかかった方がよさそうだ。

この生存者バイアスがどの程度の大きさなのかについては、米国で調査した数字がいくつか発表されている。1.4%1.3%1.7%1.3%などといった調査結果が発表されていることから、米国ではどうも1.4%前後と考えてよさそうだ。しかし、日本ではこの種のバイアスがさらに大きい可能性が高い。なぜなら、日本の方が米国よりも投資信託の寿命が短いからだ。米国では現存する投資信託のうち、10年以上運用されている投資信託が65%を占めるのに対して、日本では、10年以上のものがわずか5%にすぎない。つまり、米国では毎年3%強の投資信託が消えていくのに対して、日本ではその3倍くらいの、9%強の投資信託が平均して毎年消えていく計算になる。わが国で、生存者バイアスの大きさを測定した調査結果を目にしたことはないが、途中で消えていく投資信託が極めて多いために、生存者バイアスは、米国よりも大きなものになるはずだ。

米国では、この種の生存者バイアスがかかっていない統計調査結果が多数発表されている。以下に、信頼できると思われる調査結果を紹介しよう。

(注)わが国の投資信託は信託契約型のものが多いのに対して、米国の投資信託は会社型のものが多いという特徴があるが、本質的な違いはない。

  
   
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