賢い人の分散投資−3.13

  

13. ITバブル

1990年代の終わり頃には、ITバブルとかインターネット・バブルと呼ばれるものが出現した。IT関連企業やインターネット通信に関係がある企業の人気が高まり、株価が上昇した。もともと米国で高まった人気なのだが、わが国でも人気が沸騰した。たとえ、その企業が、実際にはITやインターネットにほとんど関係がなくとも、企業名にインターネットにかかわる名前が含まれているというだけで株価が上昇した。

当時は、設立後わずか2年のIT関連企業で上場を果たした例があり、新規に株式を公開すると、年間売上高の10倍の投資資金が集まった例もある。このように、本当に必要な資金を上回る資金が集まると、企業としては効率的な運用ができなくなる。それでも、その余裕資金を使わずに、銀行預金として預けておいてくれれば、少なくとも損はしないのだが、見込みの乏しいプロジェクトや無駄な費用にそれを使ってしまい、結局、資金的に行き詰った企業が多い。

このようなバブルは長続きしない。いずれ破裂するからバブルと呼ぶのだが、ある日を境にして、それがバブルであったことが認識され、いったんバブルが破裂すると、株式市場から資金が流出し、ITがらみの企業の資金調達は極めて困難となった。

バブルの最中にバブルが発生していることを認識したいと思っても、他の人はほとんど頼れない。自分で判断する必要がある。

米国ではバブルが発生すると、比較的早めに一部の人から警告が発せられることが多い。1996年に米国の株価が値上がりした時にはグリーンスパンFRB議長が「根拠なき熱狂」と呼んで、市場参加者に対して過熱状態を戒めた。

一方、わが国では日本の株価が行きすぎた高騰をしても、政府や日銀の首脳が警告を発するということはない。業界関係者はもちろん、評論家も株価が行き過ぎた高騰を見せていることを指摘したがらない。

「山高ければ谷深し」とよく言われるように、バブルがふくらめばふくらむほど破裂した後の下落幅が大きくなって、大勢の不幸な人たちを生み出し、また株式市場の信頼性を失わせる。このことは過去の経験で十分に分かっているのだから、日本でも、政府や業界関係者がバブルを早めにつぶして、健全な株価の上昇を図るべきだと思うのだが、そうはしない。彼らは、たとえ一時的にせよ株価が上昇することはよいことで下落することはよくないことだと思っているようで、いつでもバブルの存在を認めず、強気の見通しばかり述べたがる。

日本のマスコミも、欧米の市場についてコメントする場合には、バブルがふくらみつつあるとか、バブル崩壊の懸念が高まっているなどと、早めに厳しめの見立てを述べるのに対して、日本市場については、バブルが発生しているとか、近いうちにバブル崩壊の可能性があるなどといった客観的な評価を避ける傾向が強い。

不動産バブルの時もそうであった。不動産価格は上昇し続けると、みんな口を揃えて言っていた。株価は38千円台から4万円、5万円と上昇し続けると言われていた。このように、日本人には「まだ大丈夫」と感じたがる文化がある。いわば、「ゆでガエル文化」である。カエルを入れた水を、徐々に熱していくと、カエルはまだ大丈夫と感じて、飛び出すべきタイミングを逃して、ゆで上がってしまう。

日本では、ゆでガエル文化(注)の結果、バブルは早めに退治されることなく、どんどん膨らみ、目いっぱい大きくなってから最後に破裂する。そして、バブルによる価格の上昇と下落の振幅が大きければ大きいほど、深刻な影響を被る人が出てくる。このように、わが国は、バブルが育ちやすいバブル天国であり、また事前に警告が発せられることがないので、各自が注意深くバブルの発生を警戒する必要がある。

  

(注)ゆでガエル文化の結果、円高でも日本経済は耐久力があるので大丈夫と言う人が多いが、その間に、現実には、国内の輸出力・生産力の空洞化、雇用の衰退といった取り返しのつかない事態が進行しつつある。日本の政府債務についても同様であり、まだ何年かは大丈夫と言っている間に、手の施しようのない状態になりつつある。

  
   
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