賢い人の分散投資−4.11

  

11. 回復可能なリスクと回復困難なリスク

リスクには2通りあり、実態の変化を伴わない短期の価格変動リスク、短期の為替変動リスクのように、何ヵ月か、あるいは何年か待っているうちに回復可能性のあるリスクと、信用リスク、インフレリスク、長期の価格変動リスク、長期の為替リスクのように、実態が変化したことによるもので、待っていても回復困難なものとがある。

  

2種類のリスク
(1)  短期価格変動リスク
 短期為替変動リスク
 実態の変化を伴わない
 一時的なブレで、
 回復可能なリスク
 予測困難で、回避
 しがたいリスク
(2)  信用リスク
 インフレリスク など
 実態の変化によるトレンド
 で、回復困難なリスク
 ある程度予測可能で、
 回避しうるリスク
FP総合研究所作成

  

回復可能なリスクは、短期的な価格変動のように、上昇したり下落したりと、行ったり来たりしているのだが、様々な要因で変動していて、予測が困難である。しかし、待っているうちに、いつかまた戻ってくるのであれば、余裕資金で運用をしていて、売買を急ぐ必要のない投資家にとっては、あまり恐れる必要のないリスクである。

一方、回復困難なリスクの場合は、価格が暴落したり、さらに、買手が全くつかない状態となったりすることがある。つまり、気づくのがおくれると手遅れとなるような、本当に恐ろしいリスクである。しかし、しっかりと分析をしさえすれば、起こりうる可能性の高さを、一定の範囲をもって予測することが可能なリスクでもある。

この2種類のリスクを区別して考えなければ、リスク分析の精度は高まらない。短期的には、前者の回復可能な価格の動きの方に目が行きがちであるが、長期的には、回復困難なリスクによる価格変動の方が圧倒的に重要となる。したがって、後者の回復困難なリスクをできる限り予見して、リスクが表面化する可能性が認められる場合には、回避することが望ましい。(注)

回復困難なリスクは、その時々で、異なった要因で引き起こされるので、過去の出来事を延長してみても、必ずしも見通せるわけではない。今後の経済環境、金融環境、産業構造などを思い描きながら、様々な角度から、企業や国などの将来的なリスクを予測する必要がある。

  

避けられるリスクを避けずに、無差別に投資をすることであれば、リスにもできる。避けられるリスクを避けてこそ、平均を上回るリターンの改善が見込みうる。

「ハイリスク・ハイリターン」という言葉がよく使われており、「高いリターンを得たいなら、高いリスクのものに投資をしなければならない」、さらに進んで、「高いリスクのものに投資をすれば、高いリターンが得られる」とさえ理解されている。前者の回復可能なリスクであれば、ハイリスク・ハイリターンとなることは運次第で十分可能だが、後者の回復困難なリスクについては、一定レベル以上のリスクがある場合、平均して得るものよりも失うものの方が大きく、ハイリスク・ハイリターンではなく、ハイリスク・ローリターンとなる可能性が高い。

一般に使われている「ハイリスク・ハイリターン」という言葉は、これら両者の区別をせずに、全部まとめて、ハイリスクのものに投資をすれば、ハイリターンが待っているかのような期待を抱かせるものであり、投資家に誤解を与えるものである。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」と言われるが、危険を冒して虎の穴に入ってみても、虎の子がいないことの方が本当のところ多いのである。

ハイリスクの商品で、本当にハイリターンが得られる可能性が十分にあるなら、ハイリスクを恐れる必要はない。ハイリスクの商品で、損をする可能性が5割、もうかる可能性が5割で、それぞれが同程度ということなのであれば、うまくいけば大もうけできるかもしれないし、たとえ失敗したとしても、その損失を取り戻すチャンスがある。同様な取引を繰り返し行なった場合に、損失が単純に増え続けるわけではない。取引回数をどんどん増やせば、プラスとマイナスが同じような確率で現われて、累計でプラスに転じる可能性もある。だから、プラスに転じるまで取引を繰り返してからやめることにすればよい。この種の期待をもって、ハイリスクの商品に挑戦する人が出てきたとしても何ら不思議はない。

このような、ハイリスク商品についての誤解に基づく期待感が、一般の投資家にも広められることによって、人々が本当に重要なリスクを真剣にとらえて、避けようとする努力をしなくなる。一般の投資家に、リスクの存在を認知する習慣が不足している結果、法律や会計制度の整備されていない国に投資をしたり、得体のしれない未公開株に飛びついたりといった不幸な事態が後を絶たない。

現実の社会では、信用リスクの高いものに投資をして、結果として、得られるもうけよりも損失の方が多くなることは経験的によく知られているところであり、この点を投資経験の浅い人々に周知する必要がある。

リスクを避けるということは、近い将来起こりうる大きなトラブルをあらかじめ予測して、事前に備えをすることである。ところが、安全性の高い国で生活をしている日本人は、リスクを事前に察知する訓練が不足していて、リスクを避けられない人が極めて多い。海外旅行中に盗難にあう人、オレオレ詐欺にあう人、電車で爆睡して盗難にあう人などは、その典型と言えよう。警戒心の薄い海外旅行中の日本人は格好のターゲットとなっている。また、日本で一向に減らないオレオレ詐欺も日本独特のものであり、日本以外では詐欺ビジネスとして成り立ちにくい。

近年、「ボールを避けられない子どもたち」ということが話題となっている。小学生の運動能力調査によると、飛んできたボールから逃げられずに当たってしまう子どもたちが増えているそうである。それと同じように、リスクを避けられない個人投資家が増えているように思われる。金融自由化とともに、投資家教育の必要性が叫ばれているにもかかわらず、大きな損をする人や騙される人は減っていない。むしろ増えているようにさえ感じられる。これは、リスクを正しく認識する訓練が不足しているためのように思われる。

信用リスクのような回復困難なリスクの場合には、わずかばかりの余分な利益を得られる可能性よりも、大きく損をする可能性の方が高いのだということを、一般の投資家はしっかりと理解して、この種のリスク避けるべきであり、避ける訓練を積む必要がある。

  

(注)ポートフォリオ理論では、市場全体に影響を与える要素であるシステマティック・リスクと、個別証券のみに影響を与える要素であるアンシステマティック・リスクに分類しているが、それぞれ、回復可能なリスクと回復困難なリスクとは同じではない。市場全体の経済変動や金利変動であっても、一部の個別企業には大きな影響を与えて、回復困難なリスクとなり得る。

      ポートフォリオ理論の最大の問題点は、個別証券のリスクを吟味することなく、分散投資で消去可能であるとして、それ以上の分析を怠っていることである。しかし、個別証券の回復困難なリスク部分は、分散投資によって平均化されるだけで、消去したり極小化したりすることができるわけではない。同種のリスクの高いもののリスクプレミアムで埋め合わせられると想定するとしたら、それは楽観的すぎる。サブプライムローンの証券化商品の例を引き合いに出すまでもなく、リスクの高い商品に、リスクに見合った適正な価格がついているという仮定は現実的ではない。株式をはじめとする多くの商品は、一部の投資家の人気だけで価格が決まるという面が強く、信用リスクを含めた投資リスクを反映した価格設定となっているわけではない。一般に銀行は、投資証券の価格変動リスクで倒産する訳ではなく、不良債権つまり信用リスクで倒産すると、昔からよく言われている。個人投資家の場合でも、単なる価格変動リスクと信用リスクとを区別する必要がある。信用リスクのような回復困難なリスクを分析・評価して、回避することこそが重要であり、回避可能な個別証券のリスクを回避することによって、運用成績の向上が見込めるのである。

      一方で、ポートフォリオ理論は市場変動部分を重視しているが、市場変動による回復可能なリスク部分は、短期の利鞘稼ぎを狙う投資家には意味があるのであろうが、中長期的な視点で運用をしている投資家の運用成績には影響が少なくなるので、大部分の個人投資家にとっては、あまり重視する必要はない。

  

  
   
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