賢い人の分散投資−4.13

  

13. さらばリバランス

損切りと同じように、資産運用におけるテクニックとして、リバランスというものがあり、これも、既に多くの人に知られている。リバランスというのは、複数のタイプの資産に分散投資をする場合に、一定の配分比率を決めておき、時間の経過とともに、その比率が崩れてくると、元の比率に戻すことである。たとえば、株式と債券の割合をそれぞれ40%、60%と決めておく。債券の価格は通常ほとんど変動しないが、株式の価格は日々変動している。1年後に、株価が上昇して、株式の構成比が高まり、45%、55%という比率に変化した場合に、5%相当の超過分の株式を売り、その代金で、不足している5%相当の債券を買い増すというのがリバランスである。逆に、株価が値下がりをして、35%、65%となった場合には、債券を売って、株式を買い増すということになる。

言い換えれば、リバランスは、成績の良かったものを売って、成績の悪かったものに買い換えるということである。それはどう考えても不合理な判断だと思う人が多いだろうが、このような判断は、成績の良し悪しが実力によるものではなく、偶然によるものの場合には意外と正しい判断となりうる。つまり、リバランスをする人は、成績の良し悪しが偶然によるものだという判断をしていることになる。

たとえて言うと、学校で昨年度の試験の成績の良かった生徒は実力があったわけではなく、たまたま成績が良かっただけで、今年度の成績は下がるはずだ、一方、成績の悪かった生徒は実力がなかったわけではなく、たまたま成績が悪かっただけで、今年度の成績は良くなるはずだという判断をしているのだ。 もう少し具体的に考えてみると、ある中学校の2年生の中で、AさんとBさんの英語の試験の年間平均成績が、それぞれ60点と40点であったとする。彼らが中学3年生になった時の年間平均成績が、たとえば、それぞれ55点と45点といった具合に、Bさんの成績の伸び方がAさんの成績の伸び方を上回って、差が縮まっているはずだと考えているのだ。点差が縮まるならば、リバランスをした方が利益が増えるが、逆に点差が開くならば、リバランスをしない方が利益が増える。また、点差がほとんど変わらないならば、リバランスにかかる費用の分だけ損をする。 この3つの中で、皆さんならどのケースが起こる可能性が高いと考えるだろうか。 点差が縮まると考える人よりも、昨年と同じ程度か、むしろ広がると考える人の方が多いはずだ。

このように考え方をしっかりと整理すれば、リバランスをしたいと思う人はほとんどいなくなるだろう。リバランスは、サイコロを使ったすごろくのような、偶然が支配するゲームの世界では正しい判断となりうるのだが、学校の成績や資産運用の成績のような、因果関係が左右する現実の社会では、正当化することがかなり難しい論理と言えよう。

大部分の投資家は将来性のありそうな先を選んで投資をするはずだ。そのような投資家がリバランスをするということは、いわば、サイドブレーキを引いた状態で自動車の運転をしているようなもので、スピードが出にくくておかしいと思いそうなものだが、リバランスをしている人はそのような違和感を覚えないのだろうか。

確かにリバランスをした瞬間には、通常利益が得られるので喜ばしく思われる。しかし、値上がりをした資産がさらに値上がりをすればその後の値上がり益を逃すことになるし、値下がりをした資産がさらに値下がりをすれば、将来の損失可能性(含み損)がどんどん拡大する。そうは言っても、前項で説明した損切りは、価格が下がった時に売って、損失を確定させるものであったので、それとは逆の動きであり、まだましのようにも見える。(注)

  

世の中には、リバランスが大事だと説く人と、無意味だと言う人とがいて、一般の投資家にも混乱が見られる。そこで、このリバランスが意味のあるものなのかどうかをもう少し細かく分析して整理してみたい。この問題を考える場合にも、回復可能なリスクと回復困難なリスクとに分けて考えると分かりやすい。

価格の上昇が一時的なものであり、間違いなく再び下がってくるのであれば、高値となった時点で一部なりとも売ることは、タイミングをとらえた適切な判断となる。また、価格が下落したのが一時的なものであり、再び価格が回復するのであれば、買い増しを行うことは正当化される。つまり、リバランスは、限られた範囲内で単に上下動を繰り返しているだけの回復可能なリスクに対しては有効となりうる。しかし、その範囲を超えて上昇するとか、あるいは下落するといった、実力の変化に基づく回復困難なリスクに対しては全く有効ではない。

投資先の実態が変化しつつある時に、リバランスをすることは賢い行動とは言えない。 例えば、企業の実態面で改善が見られ、株価が上昇しつつある時に、価格が上がったことを理由に売却するのは、ナンセンスな行為であり、さらなる値上がり益をのがすことになる。また、企業の実態が悪化して、価格が下がっている時に、その資産を買い増すのは、極めて愚かな行為である。つまり、実態を見ずに、価格だけで判断をしようとすると、この種の間違いが起きる。

このように回復可能なリスクと回復困難なリスクがあることを背景として、リバランスが有効だとする調査結果と、有効ではないとする全く相反する調査結果が、様々な人々によって公表されている。つまり、どのような投資対象について調べたのか、過去のデータを見ながら、どの期間を選び、どのタイミングでリバランスをしたことにするのかによって、異なった結論が導き出されてしまうのである。

賢い投資家は、投資先の価格の変化が回復可能なタイプのものなのか、回復困難なタイプのものなのかということを見分ける必要があり、価格の変化だけを見た機械的な対応では、上手な運用はできない。

  

さらに、リバランスを勧める人は、年に1回とか、あるいはもっと頻度の高い比率の見直しをすべきだと言う。

あらゆる価格変動が回復可能なタイプのものだと仮定したとしても、比率見直しに伴う売買コストが、ここで問題となる。売買の際には、通常、売却手数料か購入手数料、あるいはその両方を払う必要がある。また、売却する資産が値上がりしていれば、値上がり益に対して通常20%の税金を払うことになる。

通常、売買を繰り返すと、株式や投資信託の売買に際して負担する手数料がボディーブローのように効いてくる。近年、株式売買手数料が、ひと昔前よりも低下し、最もコストのかからない方法を選べば、随分と安くなった。それでも、個人投資家が負担する売買手数料は、プロが負担する手数料よりも高い。プロが運用する場合でも、頻繁な売買コストが運用成績を悪化させる原因となるのだから、個人投資家はこのコストを無視すべきではない。売買手数料がゼロの商品であれば、この点は無視しうるが、その種の商品は年間運用手数料がその分割高となっている傾向がある。

次に、NISAなどの非課税制度を利用している例外的な場合を除き、税金の問題も考える必要がある。含み益の出ている資産を売却して他の資産に入れ替えるたびに、売却益に対して20%課税される。

このように、リバランスをするたびに手数料と税金とで、運用資産が少しずつ目減りして、複利の効果が低下する。複利運用に際し、運用していた元本が途中で少しずつ減ることが、長期間では無視しがたい大きな影響を与えることは周知の事実なのだが、なぜか、リバランスの効果を調べた資料の中には、リバランスに伴って発生するコストや税金を利回り計算から外したままで結論を導き出しているものが多いので、注意を要する。そのような資料を作った人が、実際に資料に記載されたような運用をしているのなら、その資料が机上の空論であることが分かるはずなのだが、不思議である。

  

ところで、価格が上下する動きを見ながら、価格が相対的に上昇したものを売り、価格が相対的に下落したものを買うという取引を頻繁に繰り返すのは、まるでデイトレーダーにそっくりである。デイトレーダーに比べれば、売買の頻度が少ないのかもしれないが、やっていることに大差はない。この方法による取引部分は、長い目で見てコスト倒れとなる確率が高く、全体としての運用成績の向上は期待できない。資産運用の成績をよくしたいのであれば、売買の回数をできるだけ減らすことが大切である。投資家が売買回数を増やした場合、もうかるのは投資家なのではなく、取引に関わっている金融機関だけである。

しかも、価格の変化は、いつも回復可能なタイプのものなのではない。回復困難なタイプのものの時には、売買コストの問題だけでは済まされない愚かな行為となる。実態面での悪化が見られたら、買い増すのではなく、事態の深刻さによっては、逆に、すみやかに売却処分すべきであろう。

結局、価格だけに基づいて、定期的、機械的に売買を繰り返すリバランスは、コスト負担と手間を強いるだけのものである。そうではなく、投資先の実態の変化を見て、売買の判断をする必要がある。価格だけに基づく売買の判断は、損切りの場合と同様に、賢い投資家のすべきことではない。 短期的な視野で投機的な投資を繰り返している人はリバランスをする必要があるのであろうが、将来性のある、まともな先に投資をしている人はリバランスを考える必要はないのだ。

  

(注)いつも利益が得られるわけではない。どちらかが値下がりし、もう一方も値下がりをするか、あるいは少なくとも値上がりをしていない場合には、値上がり益が得られない。

  
   
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