賢い人の分散投資−4.7

  

7. 避けがたいリスクと避けられるリスク

これらのリスクのうち、価格変動リスクや為替変動リスクについては、原因となりうる要素の種類も多く、しかも複雑に絡み合っているので、予測が難しい。特に、短期的な価格変動や為替変動についての予測は極めて困難である。たとえば、政府高官の突然の発言で、株価や為替が大きく動くような場合、そのような思いがけない発言を事前に察知することができない以上、短期的な価格変動リスクや為替変動リスクを回避することは事実上不可能である。

ところが、信用リスク、インフレリスクなどについては、因果関係が比較的はっきりとしているので、現状を正しく把握しつつ、将来予測を行なうことで、ある程度予見しうる。したがって、その可能性の高そうなものをあらかじめ避けることによって、かなりの程度、リスクを回避することができる。

このように、リスクには、回避しがたいリスクと、回避しうるリスクとがあり、価格の変化には、予測しがたいものと、ある程度予測可能なものとがある。これらの区別をすることなく、全部まとめてリスクを価格のブレと呼ぶのがポートフォリオ理論である。

近年、結婚する人の割合が減る一方で、離婚する人の割合が増えている。この結果、3組に1組が離婚するなどと言われる。この統計結果に基づいて、ある夫婦が食事中に、「自分たちが離婚する可能性が3分の1である」と語ったとしたら、それはポートフォリオ理論のリスク分析である。一方、夫婦仲などの個別の状況を分析した上で、「自分たちは大丈夫そうだ」と話すとしたら、それは債券などで従来から行なわれてきたリスク分析である。

今年、2011年に夏季オリンピックが開催されるかどうかと問われた場合に、ポートフォリオ理論のリスク分析では、過去のデータを分析し、100年間に25回のペースで開催されていることを確認した上で、今年開催される確率は25%であると結論づけるだろう。このように、規則的に起こることであったとしても、どのような法則性や因果関係で起きるか把握しようとする努力を怠る場合には、統計的に25%で起こる出来事として処理されてしまうのだ。これに対して、古典的なリスク分析の方法であれば、西暦年号が4で割り切れるかどうかを計算し、割り切れないことを確認した上で、開催されることはないと答えるだろう。

また、今後30年以内に50%の確率で東京に大地震が起きるなどといった確率を使った予測の話が聞かれるが、それは予知とは言い難く、注意喚起の意味しか持たない。また、その確率が本当に正しかったのかどうか、私たちは30年経ったあとに検証することさえもできない。これに対して、正確な日時まではわからないとしても、今後7日から14日の間に間違いなく東京に大地震が起きるという情報は、予知と言えるものであり、対策を立てることが可能となる

なぜ、ポートフォリオ理論ではこのような確率的な処理をすることにしたのかというと、信用リスクが定量化しにくいのに対して、価格変動リスクは定量化しやすく、価格変化の実績をコンピュータで大量処理することができるということが背景にありそうだ。その価格変動が、実態の変化によるものか、それ以外の要因によるものかという判断をあえてしないままでも、コンピュータの発達で、大量のデータをそのまま機械的に処理することができるようになったのである。しかし、このような最新のコンピュータの利用によって将来の予測の精度が高まったかというと、必ずしもそのようにはなっていない。

  
   
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