賢い人の分散投資−5.2

  

2. 資金流入とバブル

たとえ無差別分散投資を心がけて実践している人ではなくとも、1990年代にアジア諸国が高い経済成長を遂げていた時に、自分もその恩恵にあずかろうと、アジア諸国を分散投資の対象に考えた人は多かったであろう。しかし、1997年のアジア経済危機が勃発し、アジア諸国の通貨価値が大幅下落した。この結果、これらアジア諸国への投資を含めた人よりも含めなかった人の方が、分散投資の成績がよくなった。

アジア経済危機が起きたのは1997年のことであるが、そこに至るまでを簡単に振り返ってみよう。1990年代に東南アジア諸国が高い経済成長を続け、金利水準も高めであり、投資家にとって魅力的であったことから、他の国々からの投資資金が流入していた。自国通貨と米ドルとの為替レートを固定化するドルペッグ制を採用していたことから、米ドル高傾向が生じると、各国通貨も連動して高くなり、その影響で競争力を失って経済成長率が鈍化した。このタイミングで投資資金が流出して、ドルペッグ制を維持できなくなり、通貨価値が急落した。これがアジア経済危機の大きな流れであった。

このように、海外市場で投資資金が必要以上に集まる地域にはバブルが発生し、一定期間後にバブルの崩壊を生じるというケースが少なくない。中南米などで繰り返し起きてきた経済危機、通貨危機の時もそうだったのだが、まず資金の流入期があり、それがいつまでも続くことはなく、やがて資金の流出期になると、経済が混乱し、通貨価値が下落する。

一般に、高い経済成長が続くと、投資資金が集まりやすくなる。個別の企業について考えてみると、たとえば10億円必要な企業に、それよりも多い50億円、100億円集まったらどうなるだろうか。 それらの資金がすべて効率的に運用されることは期待しがたくなり、投資された資金の利回りは低下する。さらに、発展途上国で多く見られるように、企業に集まった投資資金を、経営者が私的に流用したり、わいろとして一部を帳簿から消滅させたりすることが簡単にできてしまうような国では、一層、投資資金の利回りは低下する。企業ばかりではなく、国も財政資金の無駄遣いをするようになり、このような中で、あるきっかけで短期の投機性資金が流出すると、その通貨が突然下落し始める。それまで人気のあった通貨だけに、歯車が逆回転を始めると、一斉にあらゆる資金が引き上げられ、通貨価値が急落する。その時に初めて、それまでの資金の流入がバブルを招いていたことが理解される。

このように資金の過剰な流入はバブルを生じ、やがてバブルの崩壊へと至る。したがって、資金が過剰に集まっている国々に投資をする際には、バブルの発生に注意を要する。資金がたくさん集まっている人気の高い国において、効率的な資金運用が行われているかどうか、株価が適正水準を超えて過大評価となっていないかどうかを注意深く観察して、バブルの発生の有無を冷静に判断する必要がある。

  
   
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