賢い人の分散投資−5.3

  

3. 新興国投資

現在、BRICs と呼ばれる新興国、つまり、ブラジル、ロシア、インド、中国に対する投資が盛んだ。これら4ヵ国に加えて、さらにたくさんの新興国が一般の投資家の投資対象になりはじめている。しかし、このような新興国に投資をする場合には、先進国の場合と異なり、カントリーリスクに注意を払う必要がある。また、投資対象として人気があるだけに、株価の過大評価がおきていないかどうかを注意深く検討する必要もある。

不動産バブルの時も、ITバブルの時もそうであったが、皆が投資をしているのに、自分が投資をしていないと、何かバスに乗り遅れるかのような印象を持ちやすい。このような時こそ、冷静に考えてみたい。

まず、これら新興国株式が魅力的な投資対象であると説明している金融機関の説明を聞くと、先進国と比べてGDPの成長率が著しく高いことが最大のポイントであって、カントリーリスクの問題はほとんど忘れ去られている。また、GDPの成長率が高いとしても、投資対象となる新興国企業の業績が、GDPと同じように伸びているのかどうかという説明がほとんど行なわれていない。

金融機関にとっては、ある金融商品で投資家が利益を出せるかどうかということよりも、その金融商品で金融機関がどくらいの収益を上げられるかということの方に関心がある。したがって、投資家は、以下のようなチェックポイントについて確認をする必要があろう。

  

(1)我々が投資信託を通じて投資する先は、その国の上場企業である。しかし、その国の高いGDP成長の担い手は、上場企業ではなく、非上場企業かもしれない。あるいは外国企業かもしれない。その場合には、投資先である上場企業には、GDPの成長率に見合った株価の上昇は期待できない。

事実、中国やインドの輸出を支えているのは、実は国内企業なのではなく、過半を担っているのは外国の多国籍企業である。また、社会主義国の場合、上場が許されるのは、ほとんどが旧国営企業であって、通常の国のように、本当に活力と成長力のある純粋民間企業が上場しているわけではない。中国の急成長民間企業の多くは、取引所に上場することができずに、創業版と呼ばれる店頭市場(2009年に創設され、中国版ナスダックとも呼ばれる)など、様々な他の方法で資金調達している。

  

(2)ITバブルについて述べた際にも触れたが、たとえ、投資対象企業の売上げが大きく伸びていたとしても、利益が伸びているかどうかは必ずしも分からない。経済成長率の高い国では、売上げが伸びている可能性は高いかもしれない。しかし、技術レベルがあまり高くなく、新しい企業が参入しやすい業界の場合には、競争相手が次々と登場してくるので、個々の企業の売上げが意外と伸びていないという可能性もある。そして、競争が激しければ、仮に売上げが伸びていても、利益があまり伸びていない可能性が十分にある。

利益といっても、正確には、株主の持ち分となる1株あたりの利益である。たとえ、企業の利益が伸びていとたしても、相次いで大型の増資が行われている場合には、1株あたりの利益が少しも増えていないということだってありうる。たとえば、リーマンショック後に世界各国で企業の資本増強が行なわれた。特に金融機関は、発行済み株式数が倍増するような大型増資を相次いで行なった。その後、利益の総額が回復したとしても、1株あたりの利益が回復したことにはならない。税引後の利益が倍くらいに増えて、はじめて1株あたりの利益が増資前の水準まで回復したと言えるのだ。それと同様に、中国の主要企業は大型増資を繰り返し行なっている。売上げも利益も伸びているようにみえるが、鉄鋼業、自動車産業、建設業などの主要産業について、1株あたりの利益は伸びていないと言われる。1株あたりの利益が伸びていなければ、株価の上昇は正当化されない。

  

(3)一般に表面的な成長性を見て、投資資金が集まる傾向があるので、株価が過大評価されていないかどうかを確認したい。まず、株価が現在の利益レベルに見合っているかどうかを確認する。現在の利益に見合った水準を超え、将来の利益の伸びも織り込み済みだとすると、その将来の利益の伸びを超えるような、更なる伸びが期待できるかどうかを検討したい。

大事なのは、現在の利益の増加率なのではなく、将来の利益の増加率なのである。名目で年率10%を超えるような大きな伸びが、たとえ事実であったとしても、これまでの歴史的な経験では、そうそう長続きするものではなかった。投資家は、過大な期待を抱くことなく、特に現在の伸び率が高い場合には、それが持続可能なものなのかどうか、しっかり見極める必要がある。

  

(4)さらに、会計制度や税制が先進国のように信頼できるものかどうかという懸念もある。公表される利益が伸びていたとしても、本来、積まなければならない不良債権に対する十分な引当を積んでいない場合には、収益性に対する評価は、その分、割り引く必要がある。また、企業から関係会社などを通じて本来企業に蓄積されるべき資金が流出していないかどうかも確認したい。自由市場経済のシステムがしっかりとできていない場合には、株主のチェック機能が働いておらず、したがって、株主の権利が尊重されずに、株主の持ち分がどんどん失われていく可能性がある。

  
   
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