賢い人の分散投資−5.4

  

4. カントリーリスク

投資家が分散投資の対象国をどんどん増やしていく場合には、恐ろしいカントリーリスクに直面する可能性が高まる。新興国の場合には、多かれ少なかれカントリーリスクを抱えており、この問題を検討する作業が欠かせない。

カントリーリスクというのは、法制度の不備、政策の変更、国有化、政権交代、戦争、内乱、治安の悪化、テロ、ストライキ、インフラ機能(道路・水道・電気・通信などの社会的生産基盤)の悪化、経済的混乱、対外送金の停止、為替の大幅下落などといった様々な要因によって、投資資金の回収が困難となる可能性のことである。この種のリスクは、表面化した場合の影響が大きすぎるので、一般の個人投資家は、この種のカントリーリスクがはっきりと認識できる国には投資をしないことが望ましい。

これまでの歴史を振り返ってみると、会計制度の不備な国では、豊富な資金が蓄積されていたはずの企業から、実はほとんどの資金が流出していたというケースもあった。法律の整備されていない国では、株主や債権者の権利が守られず、経営者や保証人が本来の責任を果たさなかったケースもあり、その国で訴訟をしてみても、外国人投資家に勝ち目がないというケースもあった。投資の世界には思い出したくない、しかし、忘れられない忌まわしい出来事が、歴史上たくさん残っている。

また、税制などの、法制度の突然の変更によって、投資家が大きな影響を受けたケースもあった。たとえば、企業誘致のための特別優遇税制に魅力を感じて、工場などを建設したところ、数年後に優遇税制の打切りが宣告され、企業の採算がのらなくなるといったこともあった。したがって、政府の産業政策・税制・金融政策などが安定的でなく、政策変更によって投資家の利益が守られない可能性のある国には投資をしない方がよい。

国の政策判断、特に先進国とは言えない国々の政策判断は、ともすれば企業の経営判断以上に理不尽である。企業の場合は、株主は企業価値のオーナーであり、重要な経営判断に参加することもできる。しかし、相手が国の場合には、投資家は重要な決定に参加できない。そして、その国を存続させるためには、投資家の犠牲を強いるようなことが平気で行なわれる。

一般に、各国の政府にとって、外国人投資家というのは、それほど大切な存在ではない。自国民と外国人投資家との間の利害が一致しない場合には、政府は迷わず自国民の利害を優先する。たまに、外国人投資家がもてはやされることがあるとしたら、それは、その国民にとって資金が必要な時だけである。

たとえば、中南米では過去百年間に、繰り返し、繰り返し、債務不履行を起こしてきた。そのたびに外国の投資家が犠牲になった。日本で被害をこうむった投資家は多いが、最初は政府、次が銀行、その次が一般投資家などと、被害者が順番に入れ替わったために、過去の教訓が十分に生かされなかった。

カントリーリスクの恐ろしい例として、さほどその国が行き詰っていなくとも、国の方針として、外国人投資家への支払を簡単に停止してしまうということがある。たとえば、1980年代の中南米のある国のように、外貨準備が半年分の輸入を賄えるくらい、まだ十分に残っていたとしても、それを外国人投資家のために使うことが国民にとって人気のないことだと判断すれば、外国の債権者に対する元利金の支払いを突然ストップさせる。債権者が返してほしいと思っても、現実的な強制力がない。土地、建物、道路、国会議事堂などを売って、債務を返済してもらうことも、もちろんできない。逆に、国民がそれを望めば、外国人投資家の株主持分を、その国が没収し、国有化してしまうことだって起こりうる。

各国の政府にとっては、外国の債権者との信義を守ることよりも、国民の不人気を避けることの方がはるかに重要なのである。外国の債権者の信頼を失うような行為をすると、その後の資金調達ができなくなるので、そのような判断はしないのではないかなどと言う人もいる。しかし、歴史上そのようなことは起きていない。外国人投資家に対して、いかなる犠牲を強いたとしても、この世界では、5年か10年もすれば忘れ去られる。少なくとも、一部の外国人投資家は喜んで資金を提供してくれるようになる。

近年、話題となっている新興国の場合、外貨準備にも余裕があり、それほど心配する必要がないのではないかということを述べる人もいる。しかし、何らかのきっかけで歯車が逆回転を始めると、どこまで事態が悪化しうるのかは誰にも予測がつかない。たとえば、インフレ抑制のための金融引き締めをきっかけに、株価が下落して、不良資産が増加すれば、資金の流れが一斉に逆流を始めて、当初の予測をはるかに超える事態が起こらないとも限らない。

このような過去の不幸な事態は、様々なカントリーリスクの一例に過ぎない。過去にトラブルを起こしたケースを集めて整理をすれば、国際分散投資とはいっても、どの程度まで分散することができるのか、どの程度を超えて分散しない方がよいのかという基準が見えてくるはずだ。過去に見聞き、または体験した経験から判断して、国家の経済・財政状況に問題がある場合はもちろん、問題がなかったとしても、会計制度が信頼できない国、法律が整備されていない国、わいろなどの不当利得が横行している国などでは、投資を控えた方がよい。

  
   
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