賢い人の分散投資−5.5

  

5. 格付け等を利用した絞り込み

個別の株式投資先を絞り込む場合において、格付けを利用して、少なくとも投資適格のレベルの先とすることが望ましいと述べた。投資対象国を絞り込む場合にも、同じように国別の格付け(カントリー格付け)を利用することができる可能性がある。(注)

債券投資を行なう場合であれば、格付けを見ながら、どのレベルの格付けまで投資対象として考えるか、許容しうるリスクの範囲を決める。自分は、安全性の高い格付けシングルA以上の先にするとか、さらに安全性の高いダブルA以上にするとか、それぞれ一定の選定基準を設けるはずだ。安全性が一番上位のトリプルAから債務不履行状態のシングルCまで、様々なリスクの債券をまんべんなく買うのが望ましいとは、誰も考えないであろう。少なくとも、既に債務不履行状態にあるような先を外すはずだ。

株式投資の場合でも、これと同じことだ。投資先に問題が起きた場合、株式投資の方が、債券投資の場合よりも投資資金の回収可能性が低いのだから、債券投資の場合以上に格付けの高い先に限定することが望ましい。

同じように、国際的に分散投資をする場合でも、対象国についての選別基準が必要である。ある投資家は、カントリー格付けで、かなり安全と考えられるAA以上、あるいは、せめてA以上の国々とするかもしれない。また、ある投資家は、世界各国が外貨準備に使っているような通貨を自国通貨としている世界の主要国に限定するかもしれない。

投資対象国を増やせばリスクが減ると考えるのは正しくない。異なった市場に投資をすることによって、価格変動リスクは減るかもしれないが、信用リスクは減らない。投資する国の数を増やせば、信用リスクの高い国を含めて投資をすることになって、リスクは増大することになる。

資産運用のアドバイスをする専門家で、国際分散投資を勧める人が極めて多くなっているが、その際に、どのような国々への投資までが適当で、どのような国々への投資が不適当なのかという境界線を語ってくれる人は、まずいない。分散可能な範囲について語ることなく、単に国際分散投資が望ましいとだけ言って、その後に起こることは、それぞれの投資家の自己責任であるとするのであれば、それはあまりにも無責任であるように思われる。

古くから国際的な投資をしてきた海外の投資家は、過去の経験を通じて、どのような国に投資をしてよいか、どのような国に投資をすると危険かということを感覚で理解している。このような投資家は、一般の日本人が考える以上に保守的であって、むやみに国の数を増やしたり、金利の高い国の通貨を選んだりするようなことはしない。

  

(注)この場合の格付けは、一般的に利用されている債務を対象とした格付けではなく、株主のための格付けであればさらに望ましく、絞り込みの際により有効となる。しかし、株式の格付けというものは存在はしているが、あまり一般化していないので、入手しやすい債務格付け(信用格付け)に基づいて説明している。株主が債務格付けを利用する場合、高格付けのものが望ましいとは限らないが、信用リスクの高い、低格付けのものは避けるべきである。

  
   
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