賢い人の分散投資−はじめに | |||
はじめに 資産運用の方法について知りたいと思い、投資とか資産運用と名のつく本を手にとってみると、投資信託をはじめとする様々な金融商品の特徴が書いてあって、その中から、読者の好みのものを選ぶのがよいとされている。たとえば、好みのリスクの大きさのもの、好みの利回り水準のもの、好みの投資対象のものなどといった基準で絞り込むのがよいとされている。言い方を変えると、好みで選ぶという以外の明確な基準がほとんど書かれてない。 本当に、自分の好みで選ぶ以外の選択基準がないのだろうか。一般の投資家の誰にでも共通して正しい基準といったものが、何かあるのではないか。誰にとっても「よいもの」や「悪いもの」があるのではないか。少なくとも、誰にとっても、「よい成績となる可能性の高いもの」、「悪い成績となる可能性の高いもの」といったものがあるのではないか。このような疑問を感じている人が多いのではなかろうか。 つまり、資産運用の解説書の内容は、金融商品の紹介にとどまっているものがほとんどで、望ましい運用方法を解説する手引きとはなっていない。読者が選択すべき金融商品を絞り込む際の指針としては、ほとんど役に立たない。
最近では、分散投資という言葉が頻繁に使われるようになり、資産運用というと、分散投資という言葉が連想されるくらい、資産運用と分散投資とが密接なつながりをもって語られている。 株式や債券などの分散投資を行なう際、つまり、多数の銘柄に分散しながら投資をする場合には、投資信託を利用する方法が最も手軽である。一般の個人投資家が資産運用をする際に、自分で個別の株式や債券の銘柄を選ぶ自信がないと思っている人が多い。このような人々にとって、自分で銘柄を選ばなくともすむ投資信託は、非常に便利な金融商品である。 ところが、わが国には一般の個人投資家が購入できる投資信託が6,000種類以上(注)あって、このように膨大な選択肢の中からお好みのものを自由に選んでよいと言われても、ほとんどの人は、どれを選べばよいのか戸惑ってしまう。いろいろな選び方、絞り込み方を述べる人がいるが、どの方法も不確かで、あまり納得のいくものがないと感じている人が多いのではないだろうか。 投資信託を扱っている金融機関の窓口で説明を聞いていると、話を聞いた瞬間は、そこで扱っている投資信託が最もすぐれているかのような印象を受け、ついついそこで申込んでしまうことになりがちだ。しかし、時間がたつと、それが最善の選択だったのかどうかわからなくなったり、別の金融機関で取り扱っている投資信託の方がよかったのではないかと考えたりしてしまうといった経験を持っている人が少なくない。なかには達観している人もいて、どの投資信託も似たり寄ったりで、運よく成績がよいものに当たるか、運悪く成績が悪いものに当たるかは、くじを引くようなものだと思っている人もいるようだ。 そのようにして選んだ投資信託の数年後の運用成績がまずまずで、「結果オーライ」ということであればよいのだが、どうもそうではないという人が多いようだ。 5年、10年という期間にわたって、いくつかの投資信託で運用をしているうちに、当初の投資元本よりも少しも増えていないことに気がつく。増えていないだけならまだよいが、資産を大きく減らしている人も結構多い。ひどいケースでは、投資した元本が半分に目減りしたなどという人もいる。 したがって、一般の個人投資家が、投資信託をはじめとする金融商品を絞り込む際に役に立つような、合理的な指針が求められている。
金融商品のリスクの説明についても、役に立つものが現状ほとんどない。金融自由化が進んだことから、現在では、大部分の商品が元本保証のない商品である。したがって、どの商品の解説を見ても、「価格変動によって損失が生じることがあるので注意をする必要がある」などと書いてある。外貨建ての商品であれば、どのような種類の外貨であっても、同じように、「為替リスクに注意する必要がある」と書いてある。この種の説明文は、「外出すると交通事故にあう可能性がありますよ」と言う忠告と同じことで、何度か聞くうちに気にも留めなくなる。本当のところ、何に対して、どの程度注意をしなければいけないのかということを語ってくれるのでなければ、意味のある忠告とはならない。単に「リスクに注意する必要がある」という説明は、投資判断の役に立つ情報とは言えない。
ある自然動物園を訪れて、来園者が毛並みの良い馬に乗せてもらえるサービスを見つけたと考えてみよう。そこには、注意事項として「振り落とされたりして怪我をするリスクがあるので、そのリスクをとることを了解した人だけが乗ってよい」と書いてある。しかし、それだけの説明では十分とは言えない。その馬に乗ってみようかどうか考えている人にとって知りたいのは、単に怪我をする可能性があるかどうかということなのではなく、どの程度その可能性があるのかという問題であろう。つまり、その馬がおとなしく素直な馬なのか、暴れやすい馬なのか、これまでにお客さんを落馬させたことがあったのかどうかなどといった情報がより重要となる。 また、天気予報の精度が増して信頼性が高まったことから、「今日、夕方の降雨確率が90%である」という予報は、傘を持って出かけるかどうかの判断をする際に、役に立つ情報となる。残りの10%の確率に賭けて、傘を持たずに出かけるという勇気ある判断ができる人はほとんどいないはずだ。 資産運用の方法を考える場合にも、よい運用成績を収める可能性が高いのか、あるいは、悪い運用成績となる可能性が高いのかといった種類の知識は、有益な情報となる。
これまでの資産運用で試行錯誤を積み重ねてきて、資産運用はなかなか難しいものだと考えている人が多い。このような人たちが、本稿を読んだ後で、金融商品の選別が簡単にできるようになり、資産運用というのは意外と簡単なものだ、これまでよりも自信を持ってできそうだと感じて頂けると幸いである。 なお、本稿の初稿は2011年3月に書き下ろされたが、2023年2月時点で最新のデータに更新の上、改訂を行なった。
(注)社団法人投資信託協会の調査によると、2022年12月末現在で、国内の公募投資信託が5,955本(うち、株式投資信託5,796本、公社債投資信託92本、投資法人67本)、純資産総額 約169兆円である。この他にも、海外のETF 約440種類、その他の外国籍投資信託 約300種類が日本の証券会社を通じて取得可能である。 |
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